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しまね連れづれ草

 

2018年2月号

林木屋神楽資料 こぼれ話 荒神

    林木屋の神楽資料を展示する期間限定展示は1月28 日で終了しましたが、引き続きこの展示からのこぼれ話を。

    神楽の演目「荒神」は、出雲市域においては国譲り神話を背景としたものになっています。すなわち、タケミカヅチとフツヌシが天の下を平定するために登場し、やがて鬼面のタケミナカタが現れ戦いとなりますが、タケミナカタは降参する、といった内容です。国譲り神話を背景にしていますが、オオクヌヌシは登場しません。

    国譲り神話を背景にもつ演目は、県内には「鹿島」、「国譲」など多くありますが、これらではオオクニヌシが登場します。まずこの点で、「荒神」は出雲市域に特徴的な演目といえます。

    一方、「荒神」という演目に注目すると、県内には色々なバリエーションがありました。天照大神が魔王を平定し、その後、魔王が荒神となって国土を守護するという筋立てのもの、日御碕の傍らに住む者が大和国笠山に詣で、邪神を平らげた国家の守護神としての土祖神に出会うという筋立てなどです。筋立てから見ても、出雲市域の「荒神」は特徴があるのです。
    
    ところで「荒神」が舞われた意味という視点に立って、国譲り神話などの背景を除いて考えると、少なくとも台本に記されるようになった18世紀末以後においては、「荒神」は国土・大地を守護する荒神の由来を語る演目であったと考えられます。さらにいえば、とりわけ出雲地方を中心に戸外で神木に藁蛇などを巻くなどして祭られる荒神(祭神はスサノヲとされることが多い)の由来を語るものであったと思われます。
    
    この推定の根拠として末社神の詞があります。末社神は各演目の前などに登場し、演目の内容や由来を語る役割を果たしていましたが、18 世紀末の台本に見える「荒神」の末社神の詞の中に以下の言い立てがあるのです。

1 スサノヲの気により根の国が荒れたため、日神はタケミカヅチとフツヌシを平定のために中ツ国に派遣する。スサノヲは日神の勅に応じ、地神としての荒神と祀られるようになった。
2 屋敷の戌亥に祀る神を荒神という。

 実際、築地松地帯を中心に荒神は屋敷の戌亥に祀られていますので、「荒神」は荒神の由来、さらにいえば、その神格がスサノヲであることを語る演目であったと考えられるのです。

このように見ると、出雲市域の「荒神」で平定されるのは、かつてはタケミナカタではなく、スサノヲであったことがわかります。しかし、スサノヲがタケミカヅチなどに平定されるという筋立ては神話的に矛盾しますので、 これを解決するためにタケミナカタに変化したようです。しかしこのために、なぜこの演目が「荒神」であるのかもわからなくなってしまったようです。

(古代出雲歴史博物館 品川知彦)