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しまね連れづれ草

 

2018年1月号

林木屋神楽資料〜その2〜

    あけましておめでとうございます。前回に引き続き林木屋神楽資料の紹介です。

    林木屋に伝わる神楽面は、前回紹介したように面そのものとして重要ですが、各面にはそれが用いられる役名や演目が墨書してあり、これによって明治時代前半頃の出雲市域の神楽の様子がわかるという点でも重要です。

    まず、ある役に用いられた面の数から、当時、人気のあった(よく舞われる)演目が想定できす。「山の神」、「切きり目め 」、「五行」、「三ツ熊」、「彦張」、「荒神」、「(弓)八幡」、「八頭」など現在でよく舞われている演目は、当時でも人気があったようです。

    また、現在では舞われなくなった演目が、一定程度舞われていたこともわかります。例えば、ユーモラスなやり取りがある狂言としての「大歳」は、現在、出雲神楽では槻屋神楽(雲南市・島根県指定無形民俗文化財)のみに伝承されていますが、林木屋には大歳大明神面が4点伝わっており、出雲市域でも当時、舞われていたことがわかります。また「天ノ御中主」・「和田隅」など、出雲市域の神楽以外では現在のところ確認できない演目についても、当時舞われていたことがわかります。「天ノ御中主」は天御中主尊・高皇産霊尊・神皇産霊尊の3神(いわゆる造化三神)が天地を開き、天地海を創成した由来を示す演目、「和田隅」は伊弉諾尊に仕える大和田隅が禍津日神を退治する演目ですが、林木屋には天ノ御中主面が2点、和田隅面が3点伝わっています。
    
    また林木屋神楽資料を利用していた神楽団体に伝わる古台本に記されていない演目も、一定程度舞われていたこともわかります。佐太神社への神集いを紹介する「佐陀」は佐陀神能(重要無形民俗文化財)の影響からか多くの台本に記されていますが、出雲大社への神集いを紹介する「大社」を記した台本は確認できません。しかしながら林木屋には大国主神面が5面伝わり、面が保存されていた面箱にも「大社」の墨があるのです。
    
    現在、古代出雲歴史博物館で開催中の期間限定展示「出雲の神楽をささえる―林木屋神楽資料―」では、現在では舞われていない、いわば幻の演目も紹介しながら、明治時代前半の神楽の演目を可能な限り復元しています。神楽面の造形のおもしろさとともに、出雲市域の神楽の伝承世界をお楽しみください。



(古代出雲歴史博物館 品川知彦)