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しまね連れづれ草

 

2017年12月号

林木屋神楽資料〜その1〜

    出雲市内には、見々久神楽(島根県指定無形民俗文化財)、神西神代神楽(出雲市指定無形民俗文化財)など多くの神楽が伝えられています。これらの神楽では、かつて面や衣裳などを専門の貸出屋から借りて神楽が舞われていました。出雲市ではこの貸出屋が現在のところ6軒確認されていますが、その一つに出雲市大津町の屋号「林木屋」があります。林木屋には神楽面236点、神楽衣裳307点などが伝わっています。

    林木屋は昭和30 年代には、少なくとも出雲市内の11 の神楽団体に神楽道具を貸し出していました。いわば林木屋がなければ神楽が舞えない状況だったのです。この意味で、林木屋神楽資料は出雲市の神楽の伝承を側面から支えていたといえるでしょう。

    林木屋の神楽面は、同家の勝部豊市氏(1832頃〜1897)の制作と考えられ、とりわけ明治8 年(1875)から明治15年(1882)に集中して制作されています。一般的にいって、明治初年のいわゆる神職演舞禁止令の後に神職などから氏子が神楽を学び、その結果、多くの氏子による神楽団体が成立していきます。石見地方では、増加する神楽面の需要に対して、木彫に比べて大量生産が可能な張り子(和紙)面が開発されました。一方、木彫面を使用する出雲市域では増加する需要に神楽道具の貸出屋が成立することによって応えていったと考えられます。

    ところで伝承によれば、勝部豊市氏は、口を開くと目をつむり口を閉じると目を開けるといった鬼面の仕掛けを考案したとされています。実際に、出雲市域の神楽の多くの鬼面にはこのような仕掛けが施されています。伝承が事実ならば、この点でも林木屋の神楽面は出雲市域の神楽に影響を与えているといえるでしょう。
    
    林木屋の神楽面のうち2点は、専門の彫刻家の作ではないにしろ、彫刻的に優れており、保存状態も良いことなどから昭和34年(1959)に出雲市有形民俗文化財に指定されています。また見々久神楽保持者会が昭和40年(1965)頃に林木屋から購入した豊市氏制作の神楽面31 点は、平成3年(1991)に国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)で開催された企画展「変身する―仮面と異装の精神史―」において、いわば出雲神楽の代表的な神楽面として31 点すべてのレプリカが制作され、展示されています。
    
    この度、出雲市域の神楽の歴史を考える上で重要な意味を持つ林木屋神楽資料のほとんどが一括して古代出雲歴史博物館に寄託されました。これを記念して、12月22日から常設展期間限定展示「出雲の神楽をささえる―林木屋神楽資料―」を開催します。220点を超える神楽面が一挙展示されます。お楽しみに。


(古代出雲歴史博物館 品川知彦)