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しまね連れづれ草

 

2017年9月号

噴火する背中
世界遺産登録10周年記念
特別展「石見銀山展―銀が世界を変えた―」へのお誘い

    7月14日より開催してきた特別展「石見銀山展 ― 銀が世界を変えた ― 」も残すところあとわずかとなってきました。今回は、まだご観覧いただけていない方や、もう一度観に行ってみようと思われている方へ、選りすぐりの1点を紹介したいと思います。

    石見銀山が最盛期を迎えた時代は、中世から近世への移り変わりの時代でもありました。豊臣秀吉や徳川家康といった天下人の登場による平和な時代の到来は、シルバーラッシュともあいまって空前の経済発展をもたらし、銀の対価として世界各地から輸入された様々な文物に彩られた絢けんらん爛豪ごうか華な桃山文化が花開きました。

    桃山文化を代表する数々の展示作品の中より紹介するのは「富士御神火文黒黄羅紗陣羽織」(ふじごしんかもんくろきらしゃじんばおり)です。この作品名をどこかで耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。先日、世界の美術作品を紹介する「びじゅチューン」というTV番組で「噴火する背中」と題して紹介されました。現在、古代出雲歴史博物館では「噴火する背中」の特設フォトスポットも設置しています。

    この陣羽織は豊臣秀吉の所用と伝わるもので、黒羅紗地に黄色の羅紗で御神火が立ち上る噴火した富士山を大胆にデザインしています。御神火は白羅紗であらわされ、裾には火山弾を表現しているのでしょうか、ポップな大小の水玉模様が黒羅紗で散らされています。

    襟と袖口にはフリルがあしらわれ、襟から合わせ部分にかけては銀ぎんらん襴(銀糸で模様を織りだした織物)が使用されとても華やかです。素材やデザインに西洋文化の要素が色濃く、異国文化に彩られた桃山時代を象徴する非常に斬新なデザインの陣羽織といえるでしょう。

    また、モチーフとなった富士山は古来より霊峰として信仰を集めてきた山で、「富士」が「不死」に通じることから、生死のかかわる戦場において、富士山をデザインした陣羽織を身にまとうことで、神の加護による不死を願ったのかもしれません。

    この夏の最後の思い出に「石見銀山展」で、この斬新でポップなデザインの陣羽織をご覧頂き「桃山ルネッサンス」の粋を感じていただければと思います。そして、桃山文化をもたらす原動力となった石見銀山にも思いを馳せていただき、世界遺産「石見銀山とその文化的景観」の未来への継承を考えるきっかけとなれば幸いです。

(古代出雲歴史博物館 矢野健太郎)