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しまね連れづれ草

 

2017年8月号

2つのマリア像
世界遺産登録10周年記念
特別展「石見銀山展―銀が世界を変えた―」へのお誘い

    世界遺産「石見銀山遺跡とその文化的景観」は7月2日に登録からちょうど10年という節目を迎えました。これを記念した特別展「 石見銀山展―銀が世界を変えた―」を、島根県立古代出雲歴史博物館と石見銀山資料館の2館で同時開催しています。

    世界史上、銀が最も活躍した大航海時代に、地球上の各地域は銀によって相互に結びつけられ、社会、文化、経済のグローバル化が拡大していきました。この過程でヨーロッパからアジアと新大陸にもたらされたもののひとつにキリスト教があります。今回は展覧会の作品の中から日本と南米ボリビアの2点のマリア像を紹介したいと思います。

    まず、日本の「悲しみのマリア像」です。このマリア像は、16 世紀のイタリアの画家によって描かれた作品であると言われています。画像を見ても明らかなように多くの傷が残っています。その理由は、このマリア像が折りたたまれて竹筒に納められ、土蔵の土壁の中に埋め込んで隠されていたからです。大航海時代に日本へ伝来したキリスト教は、江戸時代に入り禁教の時代を迎えました。このマリア像は、イタリアの画家が描き、日本へ伝わり、隠れキリシタンたちによって守られ、約300 年もの禁教の時代を乗り越えて現在へ伝えられたマリア像なのです。美しい顔とたくさんの傷からは、多くの信者の祈りが伝わってくるようです。

    もう1点はボリビアのポトシで描かれた「Virgen del Rosario」(ロザリオの聖母)です。ロザリオを持つマリアの体が三角形に描かれている点が特徴的です。これは先住民のパチャママ(大地の母神)信仰とキリスト教が融合されたものであるとされ、マリアの左右に描かれた太陽はインティ、月はインティの妻のママ・キジャという先住民の神をあらわしているとされます。南米のスペイン領においては、このような先住民とキリスト教の宗教観が融合した宗教画が数多く制作されキリスト教の布教が行われました。また、聖母を囲む装飾は銀細工を表現しているとされ、ポトシ銀山の繁栄をも象徴するマリア像といえるでしょう。

    この夏は「石見銀山展」で、この美しい2つのマリア像を是非ごらんいただければと思います。そして、石見とポトシの2つの銀山がもたらしたグローバル化の歴史を感じていただければ幸いです。

(古代出雲歴史博物館 矢野健太郎)