山陰のコンサート・演劇・映画・ギャラリー・イベント情報満載!

CatchNavi

しまね連れづれ草

 

2017年5月号

浦島太郎と「風土記」

    むかしむかし浦島は 助けた亀に連れられて竜宮城へ来てみれば 絵にもかけない美しさ。浦島太郎の歌というと、某携帯電話会社のCMで、浦島太郎に扮ふんしたある俳優が歌ったものを思い浮かべる方もいるかもしれませんが、長らく知られていたのは、先に引用した童謡「浦島太郎」ではないかと思います。

    小さいころ、絵本の「浦島太郎」を読んでもらいながら、童謡の「浦島太郎」を一緒に歌ったという方もいるのではないでしょうか。

    さて、その「浦島太郎」の話、実は「風土記」にも登場します。現在の京都府北部にあたる丹たんご後国の「風土記」に記されていたようですが、「丹後国風土記」そのものは残っておらず、その一部が他書に引用される形で知られるだけです。そこには「浦島子」(うらしまこ)とあり、おおよそ以下のような話になっています。浦島子が釣った亀が女性(亀比売)(かめひめ)となり、2人は遙か彼方の海上にある大きな島に赴きました。

    そこでは、宴うたげが催され、2人はやがて結ばれますが、3年経ち、両親に会いたい思いが募る浦島子は、ついに亀比売と別れ、故郷に戻ることを決意します。その別れの際に、亀比売は「けっして開けてはいけません」ということばを添え、玉たまくしげ匣(化粧箱)を浦島子に授けましたが、故郷に到着した浦島子は、すでに300年以上過ぎていたことを知り、悲しみに暮れ、亀比売のことを思って、約束を破り、玉匣を開けてしまいます。そうすると、かぐわしい香の匂いが天上に昇っていきました。 

    現在、私たちが知っている「浦島太郎」の話と違うところ、例えば、いじめられている亀を助けるところが亀を釣るとなっている点やその亀が女性になる点などもありますが、「風土記」の「浦島子」が「浦島太郎」の原型であることは間違いないでしょう。「風土記」の「浦島子」が時代を経るとともに、少しずつ変化を遂げながら、現在の「浦島太郎」になっていくのです。

    現在、私たちの知っている話が「風土記」に記されている―。「風土記」やそこに記された伝承が語り継がれ、読み継がれている証といえるのではないでしょうか。是非、古代出雲歴史博物館開館10周年記念企画展「出雲国風土記―語り継がれる古代の出雲―」(〜5月16日)で、それを実感してみてください。 

(古代出雲歴史博物館 吉永壮志)