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Mue&Saiのシネマ恋恋

 

2018年3月号

女優・江上敬子

     女優・江上敬子の次の作品も観たい! ! 吉田恵輔監督最新作『犬猿』を観終わった直後に、心からそう思いました。

    江上敬子さんとは皆様ご存知、ニッチェの江上さん。われらが島根県津和野町ご出身で地元銀行のCMにも出演されていますよね。私も帰省した際に拝見しました。その江上さん、もちろんコントをされている段階でパワフルな演技力の持ち主だとは分かっていたものの、その期待を遥かに上回る見事な映画女優さん姿に、すっかり釘付けになりました。

    『犬猿』はそれぞれ“天敵”とも言える2組の“きょうだい”の物語。印刷会社の営業マン和成(窪田正孝)は真面目で堅実な性格の弟。父親が連帯保証人となり作ってしまった借金を返済しながら、地味な生活を送っている。そこへ強盗の罪で服役していた兄・卓司(新井浩文)が、刑期を終え家に転がり込んでくるのだった。弟とは対照的に金遣いが荒く、凶暴なトラブルメーカーの兄。和成の日常が揺れはじめる。

    病に倒れた父親にかわって印刷所を継ぐ、しっかり者の姉・由利亜(江上敬子)は勤勉で賢いが、太っていて見た目も良くはない。顔とスタイルが良く、印刷所の手伝いはするものの、芸能活動もはずせない妹の真子(筧美和子)のチャラついた存在が面白くない毎日だ。一方、真子もルックスには優越感を持ちながらも、姉の頭の良さにはコンプレックスを感じている、ただでさえ微妙な二人。そんな中、和成に恋心を寄せる由利亜を知っていて、和成と付き合い始める真子。真子の枕営業に鉢合わせしてしまう卓司。卓司の存在が正直うとましい和成。それぞれの感情がぶつかり合い、からみ合い事態は思いもよらぬ方向へ転がり始め…。

    前作『ヒメアノ〜ル』から4年。吉田監督オリジナル脚本で描かれる『犬猿』は、見応えたっぷり濃密な人間ドラマでした。昨今の甘ずっぱい漫画原作に頼りっぱなしな日本映画の現状に、喝を入れに来たな!という印象を持ったのは、きっと私だけではない気がします。2018 年、早くも今年の日本映画を代表する作品の一つになるのではないでしょうか。

    家族だから、ずっと一緒だから、全て知っているからこそ、ややこしい。血の繋がり、それこそが絶望であり希望という真実は、事の大小はあれど、誰しもがどこか心当たりのあるエピソードに映るはずです。甘くないラストも大好き。所詮、人間大きく変わるのはなかなか難しい。

    その愚かしさと可笑しみを、結局許せてしまうのも、兄弟、姉妹、家族だけなのかもしれません。江上さんはもちろん、その他俳優陣の演技バトルも見事。和成、卓司、由利亜、真子。はてさて、一番の曲者は誰でしょうね。

(Sai)