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Mue&Saiのシネマ恋恋

 

2018年1月号

〜オゾンとカウリスマキ〜

    上映最終日にすべり込みで観ることが出来た、フランソワ・オゾン監督最新作『婚約者の友人』。オゾンのミステリー、と聞くと『スイミング・プール』を思い出しますが、それとは全く異なる切り口に、オゾン作品の果てない多様性を感じ心が躍りました。

    1919 年ドイツ。第一次世界大戦直後の時代が舞台の物語。戦争で婚約者フランツを失ったアンナと、フランツのお墓の前に佇むフランス人の男。彼はフランツの友人だと名乗り、戦前にフランツがパリに留学していた時の思い出を語るのでした。フランツの両親もその男を自宅に招き入れ、息子の面影を感じ取るまでに。やがてアンナも“婚約者の友人”という以上の思いを抱き始めます。その男の正体とは…。

    モノクロとカラーを巧みに使い分ける手法が、よりエモーショナルな心理投影となり、力強いラストへと繋がってゆくのが本当に見事でした。戦争の愚かさと、そこに生きる人々の葛藤が紡ぎ出す様々な“嘘”も、この作品の主役なのかも。オゾン作品に登場する男性は常に美しく、女性はいつも強いのです。

    『婚約者の友人』鑑賞時の予告編で、アキ・カウリスマキ監督の最新作情報をキャッチ。しかも翌日からの上映と知り、初日のユーロスペースへ。その新作とは『希望のかなた』。2017 年のベルリン国際映画祭で、銀熊賞(監督賞)を受賞しています。また本作は前作『ル・アーブルの靴みがき』から始まった、難民3部作の2作品目となるそうです。

    ヘルシンキに流れついたシリア難民の青年カーリドは、逃避行の最中にはぐれた妹を探すため不法滞在者となる道を選びます。理不尽な差別や暴力に遭いながらも、レストランオーナーのヴィクストロムと出会い、彼は自分の店にカーリドを雇い入れたのでした。やがてカーリドのもとに、妹が見つかったとの知らせが届き…。

    すべての命、みんなで救って何が悪い。カウリスマキの雄叫びが、静かに響き渡っているような作品でした。いつものスタイル、いつものテンポ、もちろん愛犬も共に。なのに常に新しく、社会問題をユーモアを添えて提示し続けるカウリスマキ節の心地よさったらありません。親日家監督ならではのお寿司ネタも、わさびが効きすぎ(笑)。必見です。    

    不寛容に排除したがる政治家にだけでなく、互いに助け合うことを忘れがちな私達への、希望のメッセージでもありました。まさに今、観るべき1本だと思います。

(Sai)