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Mue&Saiのシネマ恋恋

 

2017年7月号

過去と現在を繋げば

   今年2月に行われたアカデミー賞授賞式をボイコットした、監督と主演女優がいたことを覚えていらっしゃいますか?それはイランの巨匠、アスガー・ファルハディ監督とヒロインを演じた、タラネ・アリドゥスティ。二人は『セールスマン』で、外国語映画賞を受賞しました。監督は2011 年の『別離』に続いて、みごと二度目の同賞受賞。彼らのボイコット理由は、作品がノミネートされた直後、トランプ政権がビザの発給を制限した7か国にイランも含まれていたためです。私はその授賞式のテレビ中継を観ていたのですが、この二人の背景や、出席している俳優陣のトランプ政権への反発から、いつになく政治色の強いスピーチが続いたことは言うまでもありません。けれどこうしてセレブリティ達が、政治に関する個人的な主張を述べられる姿は健全だと心から感じました。残念ながら日本は…。今朝もおかしな法案が強引に通ったばかりですしね。

    国語教師の夫と妻(タラネ・アリドゥスティ)は、地元の小劇団に参加している。舞台「セールスマンの死」の稽古に励む中、自宅アパートが倒壊の危機に。劇団仲間が紹介してくれた家に移り住むが、ある夜妻が何者かに襲われる。警察に通報し犯人に償わせたい夫と、表沙汰にはしたくない妻。二人の感情はやがて、すれ違っていき…。

    「セールスマンの死」を読んでいれば、よりこの作品のメッセージを受け止められただろうにと本当に悔やまれました。民族、宗教、文化の違いもあるのか、女性としての共感には少し難しい点もありましたが、「目には目を…」という発想だけでは解決しないと世界中に言われていることは間違いないと思います。ファルハディ監督の過去作『彼女が消えた浜辺』も久しぶりに観たくなりました。

    過去作といえば、やはり頼りになるのはレンタル屋さんと配信サービスですよね。お店で見つけたアトム・エゴヤンの最新作『手紙は憶えている』を鑑賞。思いがけない見応えに、エゴヤンの世界を久しぶりに感じたくなり見逃していた『白い沈黙』も配信サービスで。『スウィート・ヒアアフター』から20 年。昔すきだと感じた監督の近作にも、こうしてまた、いいなと思える幸せに浸りました。

    ファルハディ、エゴヤン作品は、サスペンスとして見られがちですが、そこには共に社会問題を切り取る鋭い眼差しと、人間への冷静かつ、あたたかな愛情が常に込められてると思います。それこそが支持される理由ではないでしょうか。過去と現在を繋いでみると映画の中にも私にも、新たに見えるものがありました。

    

(Sai)