山陰のコンサート・演劇・映画・ギャラリー・イベント情報満載!

CatchNavi

Mue&Saiのシネマ恋恋

 

2017年5月号

私のご贔屓監督リスト(一部抜粋)

   新作が上映されたら観に行こう!そう決めている、私の映画監督リストの中にベルギーの巨匠ダルデンヌ兄弟が入っています。彼らの作品との出会いは、20 年近く前に名画劇場で観た『ロゼッタ』。それ以降、気がつけば全ての作品を観てきました。現代社会の問題点を淡々と浮き彫りにするダルデンヌ兄弟の語り口と、神々しくも現実味のある光をまとったラストシーンを確認したくて、毎回観に行っているように感じます。最新作『午後8時の訪問者』もまた、そんなダルデンヌ兄弟ならではの世界観が、あたたかく心に届く作品でした。

    主人公の女医ジェニーが知人の老齢医師の代わりに務める診療所。ある夜、時間外の午後8 時に呼鈴が鳴った。けれど彼女は出ないことを選択。しかし翌日、その呼鈴を鳴らした少女が身元不明の遺体となって近くの川辺で発見されるのだった。あの時、ドアを開けていたら、彼女は死なずにすんだのかもしれない。ジェニーは見ず知らずの彼女の身元を調べようと、独自の方法で動きだす。少女の手がかりを探しながら、同時にそれはジェニー自身を見つめなおす時間にもなっていき…。

    ダルデンヌ兄弟いわく、川辺で亡くなっていた少女はヨーロッパにたどり着けず地中海で亡くなった人々。ジェニーが閉ざした扉はヨーロッパが移民に対して閉ざした扉を意味しているのだそうです。この作品、アメリカにいる誰かさんにも観てもらいたいものですよね。相反して、ほぼノーマーク。数か月前に劇場で観た予告編ではコミカルな要素が強いと感じ、すっかり油断していた結果、大号泣してしまったのがヴィゴ・モーテンセン主演『はじまりへの旅』。この作品、冷静に確認すれば、第89 回アカデミー賞主演男優賞ノミネートに、第69 回カンヌ国際映画祭ある視点部門・監督賞を受賞していました。その監督は俳優としても活躍しているマット・ロスという人で、今作が長編2作目。私のご贔屓監督リストに入ったことは、言うまでもありません(笑)。

    アメリカ北西部の大森林に暮らすキャッシュ一家。父親のベン(ヴィゴ・モーテンセン)と6 人の子供たちは、現代生活とはかけ離れた自給自足の生活を送っている。そんなある日、精神を病んで入院していた妻の訃報が届くのだった。ママに会いたいという子供たちの願いを叶えるため、そして仏教徒である妻の亡骸を、彼女の実家あるニューメキシコの教会から救い出すために、一家は2,400 キロのバスの旅に出る決意をして…。

    まさに現代のヒッピー。ベンの子育てには共感する部分も沢山ありました。けれど子供達の成長や現実社会が、一家の形を変えてゆくのもまた真実。信念を持ちつつ、社会と折り合いをつけた時、キャッシュ一家は最高に魅力的な進化を遂げたのでした。題は『CAPTAIN FANTASTIC』。ベンを表わす実に的確なタイトルです。ロックとアフロを、こよなく愛するウチの息子に、キャプテン・ベンのファンタスティック短期留学をお願いできたらいいのになっ。

    

(Sai)