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Mue&Saiのシネマ恋恋

 

2017年1月号

生と死をみつめた女たち

    変幻自在とはこのことかと思うほどのジュリアン・ムーアの女優魂に、またもや感服の一本となった『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』。今から十数年前、実際にあった出来事をベースに作られているそうです。エレン・ペジの存在感も抜群でした。

    ニュージャージー州で20 年以上警察官として活躍してきたローレル(ジュリアン・ムーア)は年のはなれた若い女性ステイシー(エレン・ペイジ)と出会い恋人同士に。やがて一軒家を買い、穏やかな生活が始まります。幸せな時間が続くと思われた矢先、ローレルが末期癌であることが判明。二人の大切な家を手放さず、ステイシーが暮らしていけるよう、遺族年金をステイシーにのこそうとするローレル。ところが法的に同性同士のパートナーには認められていない現実が立ちはだかるのでした。消えゆく命の中で“平等”を訴え続けるローレル。彼女の勇気が変えたものとは…。

    今ではかなり進んできたLGBTの解放ですが、ローレルと彼女の“正義”に賛同した人達の力が影響を与えたと言えるほど、パワフルな作品でした。強い信念は目の前の世界を動かせるのですね。

    もう一本、こちらも実話から生まれたフランス映画『92 歳のパリジェンヌ』のご紹介です。この作品で描かれるのは「尊厳死」。元フランス首相リオネル・ジョスパンの母親の決断と、それに伴って揺れ動く家族の様々な心情が丁寧に綴られていました。

    92歳の誕生日パーティ、主役のマドレーヌのスピーチは家族への感謝から始まりました。ところが続いた言葉は「2か月後の10月17日に私は逝きます」。その場にいた一同は当然ながら困惑。はじめは母への説得を試み、話し合いを重ねます。しかし次第に母の強い意志に、心を動かされていったのは娘のディアーヌでした。迫りくる期日の中、マドレーヌとディアーヌは、どのように日々を過ごしてゆくのでしょうか…。この作品の美しさは悲愴感がなく、ユーモアまでもが盛り込まれているところ。そしてマドレーヌを含め、とりまく全ての人達の感情に肯定的な包容力があるところだと感じました。とはいえ、私にはマドレーヌのような選択が出来るのか、はたまたディアーヌのように母の決断を受け入れる覚悟を持てるのか。観客の誰もが他人事では済まされない“課題”を手渡された気持ちで映画館をあとにしたように思います。尊厳死、日本でも無視できない時代が確実に訪れているはずです。

    アメリカ、フランス。タイプは違えど、どちらも生と死に懸命に向きあう女性たちの姿を描いた今回の2作品。生き切った実感を最期に持てる幸福感。その荘厳な美しさに心を動かされたのでした。

(Sai)