山陰のコンサート・演劇・映画・ギャラリー・イベント情報満載!

CatchNavi

Mue&Saiのシネマ恋恋

 

2016年12月号

一本の電話から

    「しまね映画祭2016」のスタート直前、自身が勤務する松江テルサ事務局に一本の電話が掛かってきた。電話は高齢の婦人からで映画「君の名は」の上映はいつから?という問いだった。今回劇場公開されたのは「君の名は。」。作品は別物であることを説明しながらふと“映画の寿命”について考えた。

    「君の名は。」は新海誠監督のアニメ作品。この秋公開されるやいなや大ヒット、邦画の歴代興行収益を塗り替えそうな気配という。夢の中で男女が入れ替わる話は大林宣彦監督の「転校生」を連想させるが、複雑なストーリー展開と美しい映像が若者たちの心を捉え、話題もそこに集中しているようだ。

    問い合わせのあった「君の名は」(大庭秀雄監督)は1953 年公開のメロドラマで主演は佐啓二と岸恵子。NHKの連続ラジオドラマの映画化で毎放送時には全国の銭湯の女子風呂が空になると言われた伝説の作品である。

    この「君の名は」は平成16 年5月と平成20年5月の2回、懐かしの名作シリーズとして松テルサで上映している。3時間を超す長尺だったが観客動員数は600 人を超えた。おそらく電話の婦人はこの上映会を覚えておられたのだろう。その人にとって映画「君の名は」は時代を越え生き続けていたのだ。

    2度目の上映時に受け取った女性の感想文は今も忘れ難い。「『君の名は』は主人とお見合いで観た映画です。前回は思い出の作品をこの場所で確かめたものの、主人は突然旅立ってしまいました。今回は主人が隣にいるような気持ちで鑑賞しました」。一本の映画を何時、何処で、誰と観たのか…。映画という思い出の宝物は時代が変われど変わらない。

    今年のしまね映画祭にも観客席からの熱い想いが数多く届けられた。懐かしい、私の青春!」の声が飛び交った松江テルサ会場(優秀映画鑑賞推進事業プログラム)に寄せられた一文を紹介したい。

    「戦後間もなくの『青い山脈』(1949 年・今井正監督)、『また逢う日まで』(1950 年・同)は母の青春時代の作品でした。若い頃よく映画を観たいと話していたその母も先日亡くなりました。今日は母の写真と共に劇場に来ました」。

    「君の名は。」から「君の名は」へ。記憶の彼方で輝きを増すのが映画の魅力なのだろう。人に人の思い出がある限り時空を飛び越えて映画は生き続ける…。

(むー。)