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Mue&Saiのシネマ恋恋

 

2016年11月号

小さな国の大いなる映画たち

    ロシア西部、ヴォルガ川流域にある、マリ・エル共和国。そこに住む女性たちに焦点をあてた異色作『神聖なる一族24人の娘たち』は実に衝撃的な映画でした。なので、しばらく「凄かった。面白かった。」とばかり繰り返すので精一杯だった私(笑)。通常は一人で映画館に行くのですが、今回の上映館シアター・イメージフォーラムには未だ一人で辿り着けないため、珍しく主人と観に行きました。その主人の感想にまた、びっくり。「自分が“島根”に受けた衝撃に近いものがある。」と。それを聞いた私は、島根の女性は、こんなにも性におおらかではないし、森の妖精と話したりしないけどなぁ〜と思いつつ、でもまあ神様の存在が日常の中にあったり、あの世とこの世の境目を意識させられる土地や文化が根づいていたりすることに共通項はあるのかもと、少しだけ納得しました。

    24人の女性たちのエピソードを、繋げて描き出されるマリ人の摩訶不思議な世界。劇映画でありながらも、その逸話のすべては脚本を担当したデニス・オソーキンが実際にこの土地で見聞きしたり、今なお続く慣習だと言うのですから民俗学的にも、とても興味深い作品だと思います。フォークロア・エロティック・ガールズ・コメディとでも言うのでしょうか。ロシア映画の新たなる幕開けの予感です。

    今回思いきって、初めて憧れの岩波ホールにも足を運びました。劇場は予想通りの重厚感。壁に貼られた1974年から2015年までの上映作品のチラシが、歴史と知性を物語っているようで少し尻込みしてしまいそうになりました。むーさんは東京在住時、足しげく通われていたそうです。この時の上映作品は『みかんの丘』と『とうもろこしの島』。それぞれ監督は異なりますが、どちらも1992年頃のアブハジア紛争を軸に、戦争の無意味さや人間の尊厳、また戦火の中で、人としてどうあるべきかを静かに語りかけてくるような作品でした。

    グルジア(ジョージア)の人々の歴史を理解するのは、とても難しいことではありますが、そこに描かれる“人間”の姿という視点からは分かち合えるものが沢山ありました。1994年に停戦合意が成立したものの、現在も緊張が続くという現実が悲しくてなりません。リ・エル共和国、グルジア、エストニア。久しぶりに地球儀をまわして場所を確認してみたくなりました。小さな国の大いなる映画たちは、「未知なる世界への扉は映画にある。」と伝えているようでもありました。私はここ数日、その“旅”の余韻の中で過ごしています。

(Sai)