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Mue&Saiのシネマ恋恋

 

2016年9月号

「シン・ゴジラ」考

    「シン・ゴジラ」って何?酷暑の夏、日本に出現した人気モンスター、ゴジラ。タイトルの「シン」とは「新」の意か。キャッチフレーズは「日本対ゴジラ」。前作のアメリカ版ゴジラには興味をそそられなかったが、新作の露出度を抑えた予告編など作品のPR スタイルに感ずるところがあり、期待をこめながら劇場に向かった。

    自身は元祖ゴジラ世代。小学生の時に心をときめかせて観た白黒スタンダード版「ゴジラ」(1954年)は第1作にしてシリーズ最高傑作の誉れが高い。監督は本多猪四郎、特技監督に特撮の神様と言われた円谷英二。水爆実験で目覚めた体長50 メートルの太古の怪獣ゴジラは口から放射線をはきながら大東京を破壊する。

    元祖ゴジラの製作費は通常の3倍の6千万円、撮影日数は約4ヵ月、当時の日本映画界においては画期的ものだった。作品は公開と同時に大ヒットを見せ、即時にアメリカ版も作られている。この時マスコミが注目したのが物語の底に流れるテーマ=核の脅威だった。以来、ゴジラ映画はそのテーマを背負い続けることになる。

    当時、製作会社の東宝もここまで息の長いシリーズになるとは想像もしなかっただろうが、皮肉にもカラー化されシネマスコープの大画面に暴れるゴジラはお子様ランチ的な扱いをされつつ次第に力を失っていった。それは映画人口の激減という時代の流れと表裏一体の現実でもあった。しかし、ゴジラは昭和から平成の今日まで“最後”と“復活”を繰り返すのである。

    12年振りの新作は総監督・脚本が庵野秀明、監督・特技監督に樋口真嗣。スタッフのすべてがゴジラの“最後”と“復活”の目撃者に違いない。

    その「シン・ゴジラ」はこれまで観たことのないゴジラ映画だった。ゴジラの恐怖はそのまま近年国内で起こった巨大地震、洪水や原発事故など未曾有の災害に重ねられていた。同盟国をも巻き込む政府や自衛隊関係者の言動をスピーディーに展開してみせる脚本と演出が見事。

   官僚たちの有り体にゴジラ=人災が見え隠れする。また、大東京を破壊するシン・ゴジラにはその眼球から生物としての感情が消されていた。かつてのゴジラには目の動きに工夫が凝らされていたがここではそれがない。ガラス玉のような眼球は先の見えない恐怖に繋がっている。

   「破壊と再生の繰り返し」。この国そのものが既にモンスターになっているのでは、と映画「シン・ゴジラ」は観客に問うのである。確かに…。

(むー。)