山陰のコンサート・演劇・映画・ギャラリー・イベント情報満載!

CatchNavi

Mue&Saiのシネマ恋恋

 

2016年2月号

マフマルバフ魂の叫び

    15年ぐらい前になるでしょうか。広島にあるサロンシネマで、その日上映されるモフセン・マフマルバフ監督作品すべてを鑑賞した日のことを、久しぶりに思い出しました。

    当時イラン映画の代表格といえば、やはりキアロスタミ作品。けれど他にもこんなイラン映画があったのか!!という驚きを強烈に感じたことを今でも覚えています。それとまた同時に、イランではこういった映画が大ヒットするという観客の成熟度合いに気がつき、愕然とした気持ちについてその頃のシネマ恋恋で、きっと熱く生意気に語っていたのではと思われます(笑)。

    2002年公開の『カンダハール』以来、すっかりノーマークだったマフマルバフ映画でしたが、最新作『独裁者と小さな孫』が上映中と知りすぐさま鑑賞。あらためてマフマルバフ作品の凄さを痛感させられたのでした。

   とある独裁政権が支配する国でのこと。大統領とその家族は、国民からの税金により何不自由の無い暮らしをしていました。しかしある夜、突然クーデターが起こり大統領以外の妻や娘達は国外へと避難。けれど離れたくない小さな孫は、大統領と残ることに。するとすぐに街では民衆が暴徒化。掲げられていた大統領の写真は焼かれ、報復を訴える怒声と銃声が響き渡り、独裁政権は完全に崩壊してしまうのでした。全国民から追われる身となった大統領は、孫をつれ逃亡の旅へ。そこで二人が目にする光景と結末とは…。

   しばし日常生活に戻れない気がしてしまうほど、こんなにも見ごたえのある映画は久しぶりでした。衝撃と発見と感動のある傑作。今の時代に観なくてはいけない一本だという気がしたのです。今作では初期の作品で感じたシュールな手法は無く、スケール感が大幅にアップした印象のためか、時おりマフマルバフ作品ということを忘れそうにもなったのですが、現在の彼の状況を知り納得しました。2005年、イラン大統領がかわった後から彼の作品は上映を禁止され、この10年の間イラン政府に数回暗殺されそうになったというのです。そのためマフマルバフ一家は祖国を離れ、今もロンドンでの亡命生活を余儀なくされているそうです。

   マフマルバフ渾身の、このダークな寓話は“とある国”での出来事です。もしかしたら、大切なことが知らないうちに決まり、よく分からないカードが送られてくる国も、他人事ではいられないのかもしれませんね。

   平和と本当の意味での民主主義のために、負の連鎖を止めるには―。マフマルバフ魂の叫びを、いま世界が受け止めなければいけない時が来ているのだと思います。
 

(Sai)